川崎重工
感染症対策と称する有給休暇の時季指定は許されるのか?
神戸工場の労働者から「有給休暇の取得を強制された」との相談がありました
神戸工場の労働者から、コロナ感染症対策のために出勤率を減らすという理由で、5月連休明けの6日、7日に有給休暇を取るよう上長から指示された、との相談がありました。
この会社の措置は、感染症対策と称しながらも、有給休暇の法的規定や大企業の社会的責任からみて、重大な問題があると考えています。今後も感染症の拡大はあり得ますので、この問題についてみなさんと考えてみたいと思います。
会社の要請内容と実際はどうだったのでしょうか
当時は、4月23日に「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」が、東京都、京都府、大阪府および兵庫県に4月25日から5月11日までの期間に発出されていました。
エネルギーソリューション&マリンカンパニーは、4月26日に企画本部名で、「特に連休明けの感染拡大防止対策として、・・・5月6日(木)・7日(金)については、有給休暇取得奨励日とする」と関係部門に通知しました。(「有給休暇取得奨励日」という規定は、就業規則および労働協約にはありません。)
通知された文書には、「有給休暇の取得が難しい場合において、リモートワークが可能な環境下にある者はリモートワークでの勤務を認める。ただし、止むを得ず出勤が必要な場合は、部門長(部長以上)に出勤理由を報告のうえ出社可の承諾を得ること。なお、各部門長は出勤者について、可能な限り限定し最大で20%程度の出勤率を目指すこと」とあります。
実際の措置はどうだったのでしょうか。
当該カンパニーのある生産職場では、出勤率を減らすために事前に工程調整を行い、職制から全員に有給休暇を取るよう指示されたとのことです。なかには、家庭の事情などで有給休暇の指示に不満を持つ人たちもいましたが、職制から説得されたとのことです。
会社は有給休暇の「時季」指定はできません―労働基準法の規定と厚生労働省の説明
労働基準法第39条(年次有給休暇)の1項では、「使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない」、そして5項では、「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」と定めています。
また、厚生労働省は、『労働基準法の一部を改正する法律の施行について』(2009年5月29日)の中で、「法第39条は、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るとともに、ゆとりある生活の実現にも資するという趣旨から、毎年一定日数の有給休暇を与えることを規定している」と説明しています。
つまり、有給休暇とは、ある期間継続勤務したことによって、事後的に与えられるものであり、働き続けたことによって得た権利であること、会社の都合ではなく、労働者の意思で「心身の疲労を回復」や「ゆとりある生活の実現」のために使うものであり、「時季」は会社が指定するのではなく、労働者が指定するということです。
会社の措置は、事実上、労働基準法に反します
会社は、『通知』で「有給休暇取得奨励日」として協力を求めていますが、実際の措置はそんな生易しいものではありませんでした。
出勤にあたって、「止むを得ず出勤が必要な場合」に限り、「出社可の承諾を得ること」と厳しく制限したこと自体は、とくに問題ありません。問題は、出勤者以外の人たちに、日にちを指定して有給休暇の使用を指示したことです。家庭の事情などで有給休暇を残しておきたくても、会社が組織的に実施していることに労働者が拒否できるものではありませんし、ましてや説得されればどうしようもありません。
今回の会社の措置は、政府の要請に対し会社の施策で対応すべきことを、労働者に負担を強いる有給休暇の強制で対応したものであり、事実上、有給休暇の時季指定に相当し、労基法に反していると考えます。
なお、企業が有給休暇の時季を指定できる場合があります。それは、2019年4月から実施された「年次有給休暇の時季指定義務」というもので、有給休暇の取得促進を目的に「年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが必要」(厚労省HP)と定めたものです。ですから、今回のような場合には適用されません。
会社が宣言した『行動規範』や社会的責任に照らしてどうでしょうか
会社が倫理基準として制定した『行動規範』では、「当社グループはグローバル企業として、役員や従業員一人ひとりが国際的なルール・倫理規範、事業を行う国や地域の法令を遵守するだけでなく、個人個人の個性や文化、慣習などの多様性を理解し、尊重しなければなりません」と宣言しています。
また、日本経済団体連合会が定めた『企業行動憲章―持続可能な社会の実現のために―』でも、「関係法令、国際ルールおよびその精神を遵守しつつ、高い倫理観をもって社会的責任を果たしていく」と同じように宣言しています。
以上の宣言から見れば、今回の会社の措置は、『行動規範』にも『企業行動憲章』にも反していると言えます。
今後も、今回のようなパンデミックが何度も襲ってくると言われています。また、日本は災害大国と呼ばれるように生産活動の停止に追い込まれるような災害もあり得ます。
私たちは、このような場合に、会社は労働者の命と健康を守る責任があるわけですから、労働者が安心して休めるように、賃金100%保障の「特別休暇」とすべきと考えます。
それでこそ、グローバル企業として誇れるものではないでしょうか。
<ともに働くみなさんへ>
本件に関してどんな情報(他のカンパニーでの取り扱いなど)や意見でも結構です。お待ちしています。
日本共産党川崎重工委員会 |
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(21.09.30)